海洋散骨では、遺骨を海にまいて供養します。
しかし、海であればどこでも散骨をして良いわけではありません。
海洋散骨にも守るべきルールやマナーが存在することを知っておいてください。
この記事では、海洋散骨の正しい手順と注意点についてご紹介します。
Contents
海洋散骨とは何か
海洋散骨では、故人の遺骨をお墓や納骨堂で安置するのではなく、パウダー状に粉骨してから海にまく供養をします。
「死後は自然に還りたい」と考える自然葬の中でも人気が高く、特に海が好きな方に好まれています。
また、海洋散骨はすでにお墓や納骨堂などに埋葬されている方の遺骨を取り出し、粉末化した上で海にまくことも可能です。
海洋散骨の時期・タイミング
海洋散骨は49日や一回忌のタイミングに実施されるケースが多いです。
しかし明確なルールは定められていないため、遺族の気持ちの整理がついた時・スケジュールを合わせられた時に実施しても良いでしょう。
散骨に適した気候は春〜夏頃であり、この時期であれば寒さに耐えることなく散骨を実施できます。
ただし、梅雨や台風の時期の散骨はスケジュール変更が発生しやすくなります。
海洋散骨が注目を集めている理由
海洋散骨が注目を集めている理由には、次のようなものがあります。
死後は自然に還りたいと考える人が増えている
自然から離れストレスが多い生活を送る中で、「死後は自然に還りたい」と考える方が増えています。
海洋散骨であれば、海の一部となって自然に溶け込むようなイメージを持てるでしょう。
お墓の管理を任せる相手がいない
少子化・核家族化が進んだ現代では、お墓の継承者を探すことが難しくなっています。
誰もお墓を管理できない状態に陥れば、お墓は手入れされずに荒れてしまうでしょう。
お墓の継承者がいない場合には、自分が生きているうちに墓じまいや永代供養・自然葬などの手段を考える必要があります。
子孫にお墓の管理の負担をかけたくない
お墓の管理には多くの労力やコストがかかります。特にお墓の管理者が遠方に暮らす場合は、その負担が大きくなるでしょう。
子供や孫に負担をかけたくないという理由で、海洋散骨を選択する方も増えています。
供養にかかる費用を節約したい
現段階でお墓がなく、供養のためにお墓を建てる場合には、200万円以上の費用がかかる可能性があります。
海洋散骨は10万円未満〜20万円程度で納まる供養の方法です。
供養に多くの費用をかけたくないという考えから、海洋散骨を選択する方も多いです。
海洋散骨は違法ではない
「遺骨を海にまく」と聞くと、法律に反していないのか心配になる方もいるでしょう。
しかし日本には散骨に関する明確な法律が存在しません。
お墓に関係する法律である「墓地、埋葬等に関する法律」も、埋葬とは異なる海洋散骨について明記していないのです。
ただし、以下の点には留意して海洋散骨を行う必要があります。
必ず粉骨をする
海洋散骨は、遺骨の形状が分かる状態で実施してはいけません。
遺骨であることが分かる形状のまま散骨をすると、「遺骨遺棄罪」で罰せられる可能性があるのです。
遺骨は2mm以下のサイズまで粉骨してから、散骨してください。
パウダー状の粉骨は個人で行うことが難しいため、専門業者に依頼しましょう。
自治体の条例・ガイドラインを確認する
散骨に関しての法律は存在しないものの、厚生労働省では事業者向けの「散骨に関するガイドライン」を発表しています。
散骨業者はガイドラインに従って散骨を実施していますが、自分でも一度目を通しておくと良いでしょう。
また、自治体で散骨を禁止する条例が制定されている場合もあります。
散骨を決める時には、ガイドラインや自治体の条例を理解しておかなければいけません。
海洋散骨に必要な費用の相場
海洋散骨には、個別で船をチャーターする貸切散骨・複数の家族と同じ船に乗って散骨をする合同散骨・散骨自体を業者に委託する代理散骨の3つの種類が存在します。
この章では、それぞれの散骨に必要な費用の相場をまとめました。
貸切散骨:20万円〜40万円程度
貸切散骨では、遺族で船を貸し切って散骨をします。
コストはかかりますが、散骨場所・出航日時を自由に決定できる場合が多く、プライベートな空間で故人と特別な時間を過ごせるというメリットがあります。
小さなお子様やご高齢の方がいるご家族におすすめのプランです。
合同散骨:10万円〜20万円程度
合同散骨では、複数の家族が一つの船に乗り合わせて散骨を実施します。
個別散骨と比較して自由度は下がりますが、船のチャーター費用を抑えられるでしょう。
ただし、乗船時間が比較的長くなりやすいというデメリットがあります。
代理散骨:3万円〜10万円程度
散骨業者のスタッフに散骨を委託するプランが代理散骨であり、遺族は船に乗りません。
代理散骨後に散骨証明書が発行され、散骨時の写真も同時に受け取れるケースが多いです。
海洋散骨にかかる費用を抑えたい・乗船が難しい・遠方に暮らしている方におすすめのプランだと言えるでしょう。
海洋散骨にかかる費用を比較する時にはサービス内容も確認する
海洋散骨にかかる費用を比較検討する時には、費用のみでなく含まれるサービスも把握しておくことが大切です。
予定よりも費用が上がりやすい代表的な要因には、以下のようなものがあります。
- 粉骨費用が別途請求される
- 乗船人数が増えると費用が加算される
- 土日祝日の散骨には追加費用がかかる
- 遺骨を郵送する場合は送料が別途請求される
事前に海洋散骨にかかる費用を十分確認するだけでなく、スタッフの対応もチェックしてください。
海洋散骨実施までの流れ
海洋散骨実施までには、次のような流れで話が進みます。
1.散骨業者を選ぶ・問い合わせをする
海洋散骨が一般的になった今では、複数の散骨業者が海洋散骨を実施しています。
インターネットを活用して何社かに絞り込み、資料請求や無料相談をしてみましょう。
この際、希望の散骨場所・希望の出稿日時・不安に感じているポイントなどを説明できると良いです。
散骨業者には故人との別れという大切なセレモニーを依頼すると考え、信頼できる相手を見つけることが大切です。
2.契約・遺骨を預け入れる
散骨を依頼する業者を決定したら、業者と契約を締結します。
このタイミングで「火葬許可証」または「埋葬許可証」「改葬許可証」のコピーの提示を求められるケースが多いです。
契約締結後に、遺骨を業者に引き渡します。
遺骨は、持ち込み・専用キットを用いた郵送・業者による引き取りなどの手段で預け入れます。
3.遺骨を粉骨する
遺骨を2mm以下のパウダー状に粉骨します。
専門業者に依頼すれば、異物を取り除き乾燥などの工程も済ませてもらえます。
海洋散骨当日の流れ
次に、海洋散骨を実施する当日の散骨セレモニーの流れについて説明します。
1.集合・乗船
散骨当日は、指定された時間に集合場所に集まります。多くの場合は桟橋やマリーナが集合場所に指定されるでしょう。
全員が集まってから、専用の船に乗船します。
散骨を業者に委託する場合でも、桟橋で船を見送れるケースがあります。
2.散骨ポイントに移動する
船は沖合の散骨ポイントに向かいます。
個別散骨の場合には、この時間にも故人の好きだった音楽を流したりしながら、故人と一緒に最後の時間を過ごします。
3.散骨を実施する
散骨ポイントに到着したら、散骨セレモニーを始めます。パウダー状の遺骨を遺族で丁寧に海に還し、最後に全員で黙祷をして故人を送ります。
遺骨と一緒に献酒・献花を行うケースが多いです。
4.周遊・帰港
散骨を終えたら、散骨ポイントをゆっくりと旋回した後に港に戻ります。
5.散骨証明書を受け取る
海洋散骨では墓標が残らないため、散骨日時や場所が示された散骨証明書が発行されます。
後日散骨ポイントで法要を希望する方は、散骨証明書に書かれた緯度・経度が散骨ポイントを示すものになるのです。
海洋散骨の注意点
海洋散骨を行う時には、以下のような注意点を把握しておくべきです。
海洋散骨時のトラブルを防ぐためにも、注意点を知っておきましょう。
事前に親族全員の紹介を得る
海洋散骨は比較的新しい供養の方法であり、親族の中に海洋散骨に反対する方が現れるケースも珍しい話ではありません。
自分の考えのみで海洋散骨を強行すると、後々トラブルにつながる可能性が考えられるでしょう。
根気よく話し合いを続けて、親族全員の理解を得た上で海洋散骨を実施してください。
海洋散骨はどこでも実施できるわけではない
海洋散骨専門業者は理解していることですが、海洋散骨はどこでも実施できるわけではありません。
自然環境や地域住民に配慮するために、一般的には陸地から1海里(約1.85km)以上離れた沖合で散骨を実施します。
具体的には、以下のような場所で散骨をするべきではないことを知っておいてください。
- 海水浴場の近く
- 観光地の近く
- 航路の近く
- 陸地から近すぎる場所
- 漁場・養殖場などの漁業関係エリア
散骨当日に守るべきマナー
海洋散骨は海で実施するセレモニーであるからこそ、守るべきマナーが存在します。
以下のポイントを意識してセレモニーができるようにしてください。
海洋散骨当日は平服(普段着)で参加する
海洋散骨は喪服ではなく平服(普段着)で参加するべきです。
なぜなら、海洋散骨の集合場所である桟橋やマリーナには、さまざまな人が観光・仕事・生活をしています。
海洋散骨の参列者が喪服で船に乗る様子を見ることで、気分を害する・誤解を招く可能性があるでしょう。
さらに、船の上は滑りやすい場所もある・揺れることもあるため、スニーカーなど動きやすい靴が適します。
副葬品は自然に還るものにする
遺骨と一緒に海に流す副葬品は、自然に還る素材でなければいけません。
プラスチック製品などを海に流せば、自然を汚染してしまう可能性があるためです。
例えば、花束を添えたい時には花びらのみ・お酒の場合は少量かつ無色のものを選ぶと良いでしょう。
副葬品について疑問点がある時には、海洋散骨業者に事前に確認しておいてください。
安全に配慮する
船での行動は、自分はもちろん周囲の人の安全を左右します。
安全に海洋散骨を済ませられるように、配慮ある行動をしてください。
また、天候や海の状態に合わせて出航が延期されることも珍しい話ではありません。
船の上ではスタッフや船長の指示に従いながら、安全に海洋散骨を済ませられるようにしましょう。
海洋散骨業者の選び方
満足できる海洋散骨を実施するためには、海洋散骨業者選びに力を入れる必要があります。
この章では、海洋散骨業者の選び方のポイントをまとめました。
明確な料金体系があるか
散骨業者が提示している見積書の内容やプランを確認して、その料金体系が明確な業者を選びましょう。
具体的には、プランに含まれる費用の範囲と追加料金の有無をチェックしておいてください。
追加料金が必要なケースでも、事前に総額費用について明確な説明がある業者の方が、安心して散骨を任せられます。
法律やマナーを遵守している業者であるか
海洋散骨はどこでも・好きなように実施できるものではありません。
遵守するべき法律・ガイドライン・条例、さらに守るべきマナーも存在します。
「散骨場所・時間もご希望通りに対応できますよ」と安易な案内をする業者には注意しましょう。
問い合わせ時の対応が丁寧かどうか
海洋散骨に関する問い合わせをした時のスタッフの対応もチェックしてください。
質問に対して丁寧かつ親身に応えてくれる業者を探しましょう。
言葉遣いや接客に対する姿勢は、その会社の誠実さを表します。
安心して大切なセレモニーを任せられる業者を見つけてください。
安全管理が徹底されているか
海洋散骨では船に乗って海洋に行き、散骨を実施します。
散骨時の船が国の定期検査を受けているのか・保険に加入しているのかも大切なチェックポイントです。
万が一何らかのトラブルが発生した時には、セレモニーのみでなく家族の安全が失われてしまう恐れがあると考えてください。
天候や海の状態に合わせて出航を判断する基準も、確認しておくと良いでしょう。
十分な安全管理をしている業者でなければ、安心して海洋散骨を実施できません。
散骨証明書を発行しているか
散骨証明書は、散骨をした場所・故人が眠る場所を示す重要な書類です。
一般的な散骨証明書には、散骨をした場所の緯度・経度が記されています。
散骨業者を選ぶ際には、散骨証明書の有無と同時に内容も確認しておきましょう。
また、散骨証明書をオプション扱いにしている業者も存在します。
実績が豊富で拠点があるか
会社の所在地を調べ、マンションの一室や個人宅が拠点になっていないか確認してください。
信頼できる散骨業者はきちんとした拠点を構えて営業しているものです。
また、公式サイトやGoogleマップの口コミをチェックして、実際の利用者の声や過去の実績を知っておきましょう。
海洋散骨以外の自然葬
この章では、海洋散骨以外の自然葬について説明します。
自然葬に興味を持っている方は、ぜひ参考にしてください。
山林散骨
海ではなく山林にパウダー状にした遺骨をまく供養方法です。
土地には必ず所有者がいるため、一般的には散骨業者が所有する山林が散骨先になります。
山や自然が好きだった方に、おすすめの散骨方法です。
空中葬
ヘリコプターなどを活用して、空中でパウダー状にした遺骨を散骨します。
死後は自由になりたいと考えている方に適した供養の方法だと言えるでしょう。
また、似たような供養の方法として、遺骨をバルーンにつけて空に飛ばすバルーン葬もあります。
樹木葬
樹木葬は、お墓ではなく樹木を墓標として遺骨を樹木の下に埋葬する供養の方法です。
樹木葬の場合は散骨ではなく埋葬であり、法律に則った方法で供養をしなければいけません。
そのため、霊園や寺院が管理する樹木の下に埋葬することが一般的で、用意されたプランから理想的なものを選びます。
自分で海洋散骨ができるのか?
海洋散骨を自分で実施することは不可能ではありません。しかし、非常に困難である事実を知っておくべきです。
なぜなら、海洋散骨では自治体の条例を遵守し漁業権に配慮して散骨場所を決定しなければいけません。
さらに、散骨を目的として自ら船をチャーターすることも簡単ではないでしょう。
ルールやマナーを無視した散骨をすると、思わぬトラブルに発展する可能性があります。
海洋散骨は、専門的な知識を持つ業者に依頼するべきです。
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海洋散骨後のお墓参りや分骨について
海洋散骨と同時に墓じまいをした方・元からお墓がない方は、海洋散骨をした後の墓参りをどうするべきか悩んでしまうようです。
何らかの方法で故人を偲ぶ機会を設けたいと考えている方は、以下の手段を取り入れると良いでしょう。
実際に散骨場所まで行って墓参りをする
もちろん海にお墓や墓標はありませんが、散骨証明書に示された緯度・経度の場所に船で訪れて手を合わせれば、お墓参りと同じことを行えます。
海洋散骨業者の中には、このようなニーズに合わせてお墓参りプランを用意している業者もあります。
海に向かって手を合わせる
散骨に向かう船に乗った場所または海沿いで海に向かって手を合わせ、故人を想うことでお墓参りとする手段もあります。
手を合わせる対象を海にすれば、遠方に暮らしている方でも無理なく供養を続けられるでしょう。
一部の遺骨を残して手元供養をする
全ての遺骨を散骨してしまうことに抵抗を感じる方・供養の対象がないことに不安を感じる方は、遺骨の一部を分骨して手元に残す手元供養を選択すると良いです。
遺骨を小さな骨壷や遺骨ペンダントなどにして手元に置いておけば、大切な人を身近に感じられるでしょう。
まとめ
海洋散骨では遺骨をパウダー状にして海にまき、供養をします。
死後は自然に還りたいと考えている方・子孫にお墓を管理する負担を残したくない方にとって、海洋散骨はぴったりの供養方法だと言えるでしょう。
ただし、海洋散骨には守るべきマナー・ルールが存在することから、自分で実施するのではなく専門業者に依頼するべきです。
この記事を参考に、海洋散骨についての理解を深めてください。